ドラマ「下町ロケット」が大好評である。JAXAでロケットの打ち上げに失敗した男が責任をとって退職し親の町工場を継ぐ。そこで技術や技能を大切にした経営手腕で大手メーカー以上の品質のロケット部品を完成させ夢を叶えるという物語だ。決して経営的には裕福ではないが技術や技能を大切にした町工場、会社の危機をチームワークで乗り切るという日本的なマインドも見逃せない。そのものづくり力で宇宙開発の世界や医療技術の世界にのりだすという胸のすくようなストーリー展開が日本人の心を打つ。
リーマンショック以降、日本の技術者たちは文屋さんの経営者にさんざん煙たがられ、冷や飯を食わされた人も多かったのではないだろうか。日本の技術者はかわいそうだ。どんな立派な発明も、どんなすごい職人技も経営者には処遇ではかなわない。そこには、ビジネスというものが分かるか分からないか、リスクを取れるか取れないかという大きな壁がある。日本では、顧客志向という概念が技術者や職人を「ひとりよがり」な無能者として断罪した。結果、日本では技術者やブルーカラーの処遇は驚くほど低い。そんな冷遇された技術者が韓国や中国の企業にヘットハンティングされ、本家の家業を脅かす存在になってしまった。かつては半導体製造で、昨今では液晶や家電業界で、日本のお家芸だったものづくりの優位性はすっかり海外流出してしまったようだ。日本では子供たちの理科離れも言われて久しい。いまの子供たちの夢はパイロットや宇宙飛行士、科学者になることではないらしい。
日本よりも前から「ものつくり大国」だったアメリカは今や知識集約的な産業立国に脱皮し成功を勝ち得ている。西海岸では世界中から天才たちが集い、知的パワーで世界を動かしている感じさえする。待遇も半端なく高い。技術者はお医者さんかそれ以上の待遇だ。とにかく知識というものの価値を正確にとられ、それを思う存分駆使している感じがする。かたや日本の後をものすごいスピードで追ってきた中国はここにきて人件費の高騰とオリジナルな技術力のなさから成長の鈍化が明白で、急速に「世界の工場」からの脱皮をはかろうとしている。
さて この先日本の選択はどうするのか。世界の中でどんなポジションを取ろうとするのか。人口減少、労働力減少ひいては国力低下が必至とされる日本はどんなシナリオを描くのか。「下町ロケット」やJAXAの活躍など、最近は日本の技術力を鼓舞するような論調も目立つ。しかし 地域社会の崩壊や高齢者の不幸などを目にするとなんともやりきれない気分だ。どこもかしこも閉塞感が漂っている。子供の教育を考えるととんでもなく資金が必要で、とても多くの子供をもうけることすらできない。人権に配慮は必要だが、この国家的危機の共有化ができていないようにも思う。人口減少により国力が低下し、国家の基幹システムさえうまく機能しなくなってくる。公的債務は天文学的な数字に膨れ上がっている。国力が低下すればおのずと安全保障上のリスクも高まる。