2016年は年明けから日経株価が暴落し、1月22日には、年初から3000円の下落、16000円割れ寸前まで下げた。昨年12月 米国FRBは金利の段階的上昇を決定していた。年明け原油価格が急落し、WTI先物原油30ドル/バレルを切った。原油価格下落によってアラブ産油国の収益は悪化し日本株も売られ続けた。時を同じくして、中国上海市場が急落し、サーキットブレーカーと呼ばれるストップ安を連日繰り返した。ドル/円は下落し116円代まで低下した。朝鮮半島では北朝鮮が水爆実験を行ったと公表した。難民流入で揺れるヨーロッパでは ECBが更なる金融緩和を示唆した。何が原因で何が結果なのかわからない状態が1月続いた。中国の景気減速、米国の利上げ、原油価格の下落、これらは今に始まったことではない。その背景にあるものを読み解かなければ今起こっている世界の変化は読み解けない。
原油価格の下落には多分に政治的要素がある。シェールオイルの開発による米国石油企業の勃興。これに対してアラブ諸国は価格競争に出た。そこに、米国とイランの核開発協議が成功しイランは世界経済に復活することが許された。イスラムの宗派的対立は、 スンニ派(サウジ)とシーア派(イラン)との対立、国交断然という事態に陥っている。サウジはイラン経済に打撃を与えるため原油価格を上げない。また西側諸国と政治的対立姿勢を強めるプーチン率いるロシアの収入源も原油である。ロシア封じ込めのためにも原油価格は当面低く抑えられるのだろう。世界は今でも油をめぐる戦いを続けている。70年代のオイルショックの逆の現象、逆オイルショックである。
中国経済の低迷は昨年夏より話題となった。高度成長を成し遂げた中国がその経済構造を先進国型に転換しようとしている。統制経済の中での資本主義は果たしてうまくソフトランディング出来るのだろうか。人民元はどんどん切り下がり、ドルの利上げと相まって大変な資金が中国から引き上げられている。共産党一党独裁を続ける中国において、どこまで自由主義経済が耐えられるのかが試されている。IBBAなど中国主導の開発支援機構に日米の対応は冷ややかだ。北朝鮮の水爆実験(?)もそんな超大国の狭間で自国の存在を主張するためのデモンストレーションであろう。中国共産党による市場操作の限度を超えた時いったい何が起こるのであろうか。だれも想像できない。
世界で唯一デフレからの脱却に成功したように見える米国経済。しかし 金利を上げたとたん、世界中のドルが逆流をはじめ新興国の通貨安懸念が噴出している。米国は自国の都合だけで経済政策を決定できない状況になりつつある。ドル/円だけ見ていたのでは世界経済は見えない。クロス円と言われる指標では、いまや ドルと円が独歩高、世界最強の通貨になってしまっている。世界経済を考えた時、今年米国は何度利上げができるのかが論点になっている。新興国経済と米国経済の綱引きという構図がある。
さて 肝心の日本は、本日1月29日、日銀黒田総裁は誰も予想していなかった、マイナス金利政策を発表した。2014年10月黒田バズーカ第2弾以来のサプライズである。何が何でも莫大に貯蓄されている円を市場に引きづり出したいらしい。1700兆円ともいわれる日本人の金融資産の流動性を上げることで、株価の上昇、円安誘導、企業業績の向上、、、デフレからの脱却を図るという。この夏行われる参院選、安倍政権は悲願の「憲法改正」を論点に進めたい。米国と中国の政治的覇権対立が鮮明になる中で憲法を改正し日本の軍事プレゼンスを高めたい。それには、景気の浮揚と政権支持率の上昇が不可欠だ。今回のマイナス金利政策もその政治色の匂いがプンプンする。
こうして世界を眺めると一見個別に動いている原油、ドル/円、上海株価、日経株価ではあるが、根底には政治的な覇権争いがあるような気がする。日本だけマイナス金利にしたところで世界の政治構造は変わらない。しかしこれだけ国家が自由市場に関与してもいいものだろうか。意図的に操作された経済はいつか破綻を招く。世界は中国を笑えない。